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東京地方裁判所 平成3年(ワ)7778号 判決

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

第一  本件賃貸借契約

一  亡岩蔵は、被告に対し、昭和三二年四月一日、本件土地を左記約定で貸し渡した(争いがない。)。

目的 普通建物所有

期間 昭和三二年四月一日から二〇年

賃料 一か月二五二〇円

支払方法 毎月末日までに当月分を持参払い

特約 土地の現状を変更するとき、第三者に使用させるときは書面による承諾を受けなければならない。

契約に違背したときは通知催告を要せず解除できる。

二  右期間満了後亡岩蔵から特別の異議もなく、被告は本件土地の使用を継続していたものであるが(法定更新されたことは争いがない。)、被告としては更新料を支払う必要があると考え、亡岩蔵にその旨話し、その結果、二五〇万円を更新料として支払うことになつた。当時、被告はこれを一回で支払うことができなかつたので、年五〇万円宛五年で分割支払うこととなり、昭和五二年から昭和五六年まで約束通り支払つた。最後に支払をなした昭和五六年五月一九日、改めて被告と亡岩蔵は本件賃貸借契約の期間を同日から二〇年とすることに合意した(以下の事実は、《証拠略》により認める)。

従つて、本件賃貸借契約の期間は昭和五六年五月一九日から二〇年となつたものである。

三  亡岩蔵は平成二年二月一三日死亡し、原告が相続により賃貸人たる地位を承継した(争いがない。)。

第二  本件土地の使用など

被告は、本件土地の内北側部分の本件駐車場を賃貸の駐車場として使用し、南側部分の本件宅地に本件建物を所有し、本件土地を占有使用している(争いがない。)。

第三  信頼関係の破壊

一  原告は、被告は適正な地代の値上げに満足に応じたことがなく、昭和六〇年五月頃、原告が地代の値上げを求めたところ、交渉にすら応じず、昭和六一年六月から賃料を供託して現在に至つていると主張する。

被告が現在賃料を供託していることは争いがないところ、供託に至つた原告は本件証拠上明確ではなく、供託しているからといつてそのことから直ちに原告と被告の本件賃貸借契約における信頼関係が破壊されたとは認め難い。

二  原告は本件駐車場の使用は無断でなされた旨主張する。

被告は、本件土地に建築されていた二階建のアパートを購入し、前記のとおり亡岩蔵より本件土地を賃借したものであるが、賃借後アパートの一部を取り壊し、作業所を建築して封筒の製造を行うようになり、ついで昭和三八年には更にアパートの一部、作業所を取り壊して溶接の工場と住居を建築した。この工場と住居が本件建物である。これらはいずれも亡岩蔵の承諾を得て行われた。

その後、昭和五四年頃になり、アパートは老朽化し、居住する者も少なくなつたので、更に残りのアパート部分を取り壊し、その跡地を駐車場とすることを計画し、亡岩蔵の了解を求めたところ、同人も承諾したので、昭和五五年春頃から本件駐車場を有料の駐車場として第三者に使用させるようになり、現在に至つている(以上の事実は、《証拠略》により認める。《証拠判断略》。)。

従つて、本件駐車場の使用は亡岩蔵の承諾を得てなされているものであるから原告の右主張は理由がない。

三  以上のとおり、本件賃貸借契約における信頼関係が破壊されている旨の原告の主張は理由がなく、これを理由とする解除は認められない。

第四  本件賃貸借契約の変更及び解約

一  原告は、被告が本件駐車場を駐車場として使用開始したことにより、本件土地全体が借地法の適用のない賃貸借契約に変更された旨主張する。

しかしながら、借地の一部について使用目的の変更があつたとしても、それが借地全体の使用目的の変更になるとはいえないのであるから、本件駐車場の使用が亡岩蔵の承諾を得て行われている以上、本件駐車場について使用目的の変更がなされたかどうかはともかくとして、本件土地全体について使用目的の変更があつたとはいえず、右主張は失当であり、これを前提とする解約の主張は認められない。

二  次に本件駐車場について使用目的の変更があつたかどうか検討する。

前記のとおり本件駐車場はもともとは宅地として使用されていたものであるが、駐車場として使用されるようになつて以後は、本件建物の所在する本件宅地とは塀により明確に仕切られ、本件宅地の二分の一以上の面積を有し、一三台の自動車が駐車できる有料の駐車場として、本件土地とは独立に使用に供されている(以上の事実は、《証拠略》により認める。)。

右事実によれば、本件駐車場は本件宅地の使用とは独立に専ら駐車場として使用されているものであるから、本件宅地に本件建物を所有する上で特に本件駐車場が必要とは認められず、本件駐車場については借地法の趣旨からして同法の適用はないものといわざるを得ない。

従つて、本件駐車場は、駐車場として使用されるようになつて以後、借地法の適用はなくなつたものであるが、他方、《証拠略》によれば、本件駐車場の使用開始後も、賃料は特に区別することなく本件土地全体について決められてきたこと、既に駐車場としての使用が開始された後である前記昭和五六年五月一九日の更新は、本件土地全体の賃貸借契約を更新する趣旨でなされたことが認められ、右事実からすると、本件駐車場の賃貸借期間については、本件宅地の更新後の期間同様、昭和五九年五月一九日から二〇年と合意されたものと認めるのが相当である。

従つて、本件駐車場の賃貸借期間が定めのないものであることを前提とする解約の主張は理由がない。

第五  結論

以上のとおり、原告の請求はいずれも理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小田泰機)

《当事者》

原 告 高橋徳蔵

右訴訟代理人弁護士 設楽敏男 同 阪本 清 同 棚橋栄蔵

被 告 鈴木卯之吉

右訴訟代理人弁護士 小林幹治

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